Easy Exercise

勉強したこと、見つけたことのメモ。

MZVとMZSVの和公式

この記事は

adventar.orgの13日目の記事です。

多重ゼータ値(multiple zeta value, MZV)とは、整数 k_1, \cdots, k_{r-1} \ge 1, k_r \ge 2 に対し

\begin{split} \zeta(k_1, k_2, \cdots, k_r) := \sum_{0 \lt m_1 \lt m_2 \lt \cdots \lt m_r} \cfrac{1}{m_1^{k_1} m_2^{k_2} \cdots m_r^{k_r}} \end{split}

で定義される多重和です。条件 k_r \ge 2 のおかげでこの級数はきちんと収束してくれます。MZV の定義において r=1 とすると \begin{split} \zeta(k_1) = \sum_{m = 1}^\infty \cfrac{1}{m^{k_1}} \end{split}

となりますが、これは Riemann ゼータ関数の特殊値にほかなりません。

つまり多重ゼータ値は Riemann ゼータ関数の変数を多重化したものの特殊値ということです。

 

MZV と類似した多重和に多重ゼータスター値(multiple zeta-star value, MZSV)があります:整数 k_1, \cdots, k_{r-1} \ge 1, k_r \ge 2 に対し

\begin{split} \zeta^\star (k_1, k_2, \cdots, k_r) := \sum_{0 \lt m_1 \le m_2 \le \cdots \le m_r} \cfrac{1}{m_1^{k_1} m_2^{k_2} \cdots m_r^{k_r}}. \end{split}

見ての通り、MZSV は MZV の多重和に等号が付いたバージョンです。MZSV において r = 1 とすると再び Riemann ゼータ関数の特殊値になります。

 

MZV(MZSV)は興味深い等式が数多く発見されており、今なお活発な研究が進んでいる対象です。詳しくは以下の記事を挙げます。

ja.wikipedia.org

mathematicspedia.com

mathematicspedia.com

本記事では MZV(MZSV)の等式の中でも最も基本的かつ美しい等式の一つである和公式と呼ばれる等式を紹介します:

定理1(MZVの和公式) k \ge 2,r \ge 1 に対し

\begin{split} \sum_{\substack{k_1 + k_2 + \cdots + k_r = k \\ \forall i, ~ k_i \ge 1, ~ k_r \ge 2}} \zeta(k_1, k_2, \cdots, k_r) = \zeta(k). \end{split}

 

まずはこの等式の意味を丁寧に説明しましょう。

左辺は、MZVを定義できる整数 k_1, k_2, \cdots, k_r であってその和が k であるものを全てわたる MZV の和(ただし r は固定していることに注意)になっています。これが Riemann ゼータ関数k での値というとてもシンプルな値で書けるというのが和公式の主張です。

一方MZSVも類似の公式を満たすことが知られています。

定理2(MZSVの和公式) k \ge 2,r \ge 1 に対し

\begin{split} \sum_{\substack{k_1 + k_2 + \cdots + k_r = k \\ \forall i, ~ k_i \ge 1, ~ k_r \ge 2}} \zeta^\star (k_1, k_2, \cdots, k_r) = \binom{r-1}{k - 1} \zeta(k). \end{split}

 

今度は右辺に二項係数が現れていますが、こちらも MZV の和公式と同様非常に美しい等式だと思います。

MZV の和公式の証明

Zagier の証明

MZVの和公式は r=2 の場合にあの Euler によって示されていたそうです!実は Euler 自身は一般の r に対する MZV の研究を行っていないそうで、一般の r に対する MZV の研究の重要性を広めた数学者に Hofman、Zagier たちが挙げられます。

それでは第一の証明として、その Zagier による証明を紹介します。それには MZV の多重積分反復積分)表示が必要になります。

定義3(反復積分f_0(t) = 1/t,f_1(t)=1/{(1-t)} とおく.\varepsilon_1, \cdots, \varepsilon_k \in \{0,1\} に対し

\begin{split} I(\varepsilon_1, \cdots, \varepsilon_k) := \int_{0 \lt t_1 \lt \cdots \lt t_k \lt 1} f_{\varepsilon_1} (t_1) \cdots f_{\varepsilon_k} (t_k) dt_1 \cdots dt_k \end{split}

と定める.この積分\varepsilon_1 = 1,\varepsilon_k = 0 のとき収束する.

  

定理4(MZV の反復積分表示)

\begin{split} \zeta(k_1, k_2, \cdots, k_r) = I(1, \{0\}^{k_1-1}, 1, \{0\}^{k_2-1}, \cdots, 1, \{0\}^{k_r-1}). \end{split}

ただし \{a\}^k とは,ak 個並べたものを意味する.

 

 この表示は、適宜 1/(1-t_i) = \sum_{n=1}^\infty t_i^{n-1} を使って t_1 から順番に項別積分していくことで簡単に示せます。

 

MZV の和公式の証明 by Zagier

定理1の左辺を S(k,r) と書くと反復積分表示から

\begin{split} S(k,r) = \sum_{\substack{\varepsilon_2, \cdots, \varepsilon_{k - 1} \in \{0,1\} \\ \varepsilon_2 + \cdots + \varepsilon_{k - 1} = r - 1}} I(1, \varepsilon_2, \cdots, \varepsilon_{k - 1}, 0). \end{split}

よって k は固定して n に関する母関数を作ると

\begin{align} \sum_{0 \lt r \lt k} S(k,r) X^{r - 1} &= \sum_{\varepsilon_2, \cdots, \varepsilon_{k - 1} \in \{0,1\}} I(1, \varepsilon_2, \cdots, \varepsilon_{k - 1}, 0) X^{\varepsilon_2 + \cdots + \varepsilon_{k - 1}} \\ &= \int_{0 \lt t_1 \lt \cdots \lt t_k \lt 1} \cfrac{1}{1-t_1} \left( \cfrac{1}{t_2} + \cfrac{X}{1-t_2} \right) \cdots \left( \cfrac{1}{t_{k - 1}} + \cfrac{X}{1-t_{k - 1}} \right) \cfrac{1}{t_k} dt_1 \cdots dt_k. \end{align}

いま被積分関数t_2, \cdots, t_{k - 1} に関して対称なので,t_2, \cdots, t_{k - 1} の大小をどのように並び替えても(全部で (k-2)! 通り)積分の値は不変である.したがって

\begin{align} \sum_{0 \lt r \lt k} S(k,r) X^{r - 1} &= \cfrac{1}{(k-2)!} \int_{0 \lt t_1 \lt t_2, \cdots, t_{k - 1} \lt t_k \lt 1} \cfrac{1}{1-t_1} \left( \cfrac{1}{t_2} + \cfrac{X}{1-t_2} \right) \cdots \left( \cfrac{1}{t_{k - 1}} + \cfrac{X}{1-t_{k - 1}} \right) \cfrac{1}{t_k} dt_1 \cdots dt_k \\ &= \cfrac{1}{(k-2)!} \int_{0 \lt t_1 \lt t_k \lt 1} \left( \int_{t_1}^{t_k} \left( \cfrac{1}{t} + \cfrac{X}{1-t} \right) dt \right)^{k - 2}  \cfrac{dt_1}{1-t_1} \cfrac{dt_k}{t_k} \\ &= \cfrac{1}{(k-2)!} \int_{0 \lt t_1 \lt t_k \lt 1} \left( \log \cfrac{t_k}{t_1} + X \log \cfrac{1 - t_1}{1 - t_k} \right)^{k - 2}  \cfrac{dt_1}{1-t_1} \cfrac{dt_k}{t_k}. \end{align}

ここで変数変換

\begin{split} x = \log \cfrac{t_k}{t_1}, \qquad y = \log \cfrac{1 - t_1}{1 - t_k} \end{split}

を行うと,(t_1,t_k) \mapsto (x,y)\{0 \lt t_1 \lt t_k \lt 1\} から (0,\infty)^2 への全単射で,そのヤコビアン

\begin{align} \cfrac{\partial (x,y)}{\partial (t_1, t_k)} &= \cfrac{t_1 - t_k}{t_1 (1 - t_1) t_k (1 - t_k)} \\ &= \cfrac{1 - e^{x+y}}{(1 - t_1) t_k} \end{align}

と計算される.よって両辺の X^{r-1} の係数を比較すると

\begin{align} S(k,r) &= \cfrac{1}{(k-2)!}  \int_0^\infty \int_0^\infty \binom{k - 2}{r - 1} x^{k - r - 1} y^{r - 1} \cfrac{1}{e^{x+y} - 1} dx dy \\ &= \int_0^\infty \int_0^\infty \cfrac{x^{k - r - 1}}{(k - r - 1)!} \cfrac{y^{r - 1}}{(r-1)!} \cfrac{1}{e^{x+y} - 1} dx dy \end{align}

ここで

\begin{align} \cfrac{1}{e^{x+y} - 1} &= \cfrac{e^{-x}e^{-y}}{1 - e^{-x}e^{-y}} \\  &= \sum_{n=1}^\infty e^{-nx}e^{-ny} \end{align}

\begin{align} \int_0^\infty e^{-nx} x^{k - 1} dx &= \cfrac{\Gamma(n)}{n^k} = \cfrac{(n-1)!}{n^k} \end{align}

より

\begin{align} S(k,r) &= \int_0^\infty \int_0^\infty \sum_{n=1}^\infty \cfrac{e^{-nx} x^{k - r - 1}}{(k - r - 1)!} \cfrac{e^{-ny} y^{r - 1}}{(r-1)!} dx dy \\ &= \sum_{n=1}^\infty \cfrac{1}{n^{k - r}} \cfrac{1}{n^r} = \zeta(k). \end{align}

証明終

積分表示を使わない証明

Zagier の証明とおそらくほぼ同時期に Granville が MZV の級数表示しか用いない証明を与えています。その論文 [G] には次のような文章が書かれています。

The above proposition has been proved independently by Zagier [9], who writes of his proof, 'Although this proof is not very long, it seems too compicated compared with the elegance of the statement. It would be nice to find a more natural proof': Unfortunately much the same can be said of the proof that I have presented here.

The above proposition というのが MZV の和公式のことで、Zagier [9] は上で紹介した MZV の和公式の証明の書かれた文献(未出版)のことです。

この 'more natural proof' として Zagier の御眼鏡に適うかはわかりませんが、現在では和公式を含むより大きな関係式である大野関係式の connector method と呼ばれる大変美しい証明が関-山本 [SY] によって発見されており、その特殊ケースとして和公式も簡単に証明できてしまいます。

詳しくは説明が大変なので関先生本人によるブログ記事

integers.hatenablog.comがとても面白いので一読をオススメします。ちなみに和公式の connector method による証明はブログの一番最後に説明されています。

 MZSV の和公式の証明

 MSZV の和公式は MZV の和公式からしたがう*1ことが和公式が証明される前から Hoffman [H] によって知られていました。その証明は純粋に組み合わせ論です。

「MZV の和公式 \Rightarrow MZSV の和公式」の証明 by Hoffman

まず MZSV は MZV の非負整数倍の和で書けることに注意する.たとえば

\begin{align} \zeta^\star(1,2) &= \sum_{0 \le m \lt n} \cfrac{1}{m n^2} \\ &= \sum_{0 \lt m \lt n} \cfrac{1}{m n^2} + \sum_{0 \lt m = n} \cfrac{1}{m n^2} \\ &= \zeta(1,2) + \zeta(1+2). \end{align}

一般の場合も同様に (k_1, k_2, \cdots, k_r) におけるいくつかの「,」を「+」に置き換えた組の MZV をわたる和となる.

そこで和が k となるような l_1, \cdots, l_{s-1} \ge 1, l_s \ge 21 \le s \le r)を固定するとき,定理2の左辺を MZV の和で書くと \zeta(l_1, l_2, \cdots, l_s) が何回現れるかを数える.

(l_1, l_2, \cdots, l_s) は 組 (\{1\}^{k-2},2) において k-s-1 個の「,」を「+」に置き換えたものとみなすことができる.よってその k-s-1 個の「+」のうち r-s 個を「,」に置き換えて得られる組 (k_1, k_2, \cdots, k_r) の数,すなわち \binom{k-s-1}{r-s} 回だけ \zeta(l_1, l_2, \cdots, l_s) が現れることになる.したがって

\begin{align} \sum_{\substack{k_1 + k_2 + \cdots + k_r = k \\ \forall i, ~ k_i \ge 1, ~ k_r \ge 2}} \zeta^\star (k_1, k_2, \cdots, k_r) &= \sum_{s=1}^r \binom{k-s-1}{r-s} \sum_{\substack{l_1 + l_2 + \cdots + l_s = k \\ \forall j, ~ l_j \ge 1, ~ l_s \ge 2}} \zeta(l_1, l_2, \cdots, l_s) \\ &= \sum_{s=1}^r \binom{k-s-1}{r-s} \zeta(k) \\ &= \binom{k - 1}{r-1} \zeta(k). \end{align}

証明終

参考文献

[AK] 荒川恒男, 金子昌信, 多重ゼータ値入門, 九州大学 MI レクチャーノート 23 (2010).

[G] A. Granville, A decomposition of Riemann’s zeta function, London Mathematical Society Lecture Note Series (1997): 95-102.

[H] M. E. Hoffman, Multiple harmonic series, Pacific Journal of Mathematics 152.2 (1992): 275-290.

[SY] S. Seki, S. Yamamoto, A new proof of the duality of multiple zeta values and its generalizations, International Journal of Number Theory 15.06 (2019): 1261-1265.

 

次の14日目の記事は、tsujimotterさんによる「類体論の基本不等式の証明」です。お楽しみに!

tsujimotter.hatenablog.com

*1:実際には同値らしいですが僕はきちんと確かめていません。