q-二項係数について
-二項係数はある非可換な代数の二項展開の係数として解釈できることを示し、これを用いて等式
— 級数bot (@infseriesbot) 2020年10月3日
を証明します。
-類似とは
-類似については以前の記事
にも書きましたが、改めて簡単に復習します。
定義1 整数 に対し
\begin{split} [n]_q = \cfrac{1-q^n}{1-q}, \qquad [n]_q! = \prod_{i=1}^n [i]_q, \qquad \binom{n}{k}_q = \cfrac{[n]_q!}{[k]_q![n-k]_q!} \end{split}
と定め,それぞれを -数,-階乗,-二項係数と呼ぶ.更に または の場合にも と値を定めておく.
これらは極限 を取ると
\begin{split} \lim_{q\to1}[n]_q = n, \qquad \lim_{q\to1}[n]_q! = n!, \qquad \lim_{q\to1}\binom{n}{k}_q = \binom{n}{k} \end{split}
を満たしています。このように極限 を取ると○○に一致するものを○○の -類似といい、-○○と呼んだりします。
-二項係数再訪
上に載せた記事では、-二項係数の有限体 上のベクトル空間の数え上げによる解釈を与えていました:
今回の記事では -二項係数の別の解釈を考えます。
通常の代数では積は可換、すなわち という状況を考えることが多いと思います。ここで新たな変数 を加えて
\begin{split} yx=qxy \end{split}
という関係式を考えてみます(ただし と , と それぞれの積は可換とします)。 このとき ならば なので積は可換ですが、そうでなければ なので積は非可換となります。
以下ではこの で生成される(非可換)環*1を考えます。
の場合、すなわち と が可換な場合に の展開式を二項係数を使って表したものが高校で習う二項定理であったことを思い出しましょう。そこで一般の に対して の展開式を求めてみます。
まず -二項係数に関する次の命題を用意します(パスカルの三角形の -類似!):
命題3 は漸化式
\begin{split} \binom{n}{k}_q = q^k \binom{n-1}{k}_q + \binom{n-1}{k - 1}_q \end{split}
()を満たす.
証明 の場合は明らか. とする.
\begin{align} q^k \binom{n - 1}{k}_q + \binom{n - 1}{k - 1}_q &= q^k \cfrac{[n - 1]_q!}{[k]_q![n-k - 1]_q!} + \cfrac{[n-1]_q!}{[k - 1]_q![n-k]_q!} \\ &= \left(q^k [n-k]_q + [k]_q \right) \cfrac{[n-1]_q!}{[k]_q![n-k]_q!} \\ &= [n]_q \cfrac{[n-1]_q!}{[k]_q![n-k]_q!} \\ &=\binom{n}{k}_q. \end{align}
証明終
この命題を用いると次の結果が証明できます!
定理4 関係式 のもとで
\begin{split} (x + y)^n = \sum_{k=0}^n \binom{n}{k}_q x^{n-k} y^k. \end{split}
証明 に関する帰納法を用いる. のときは より成り立つ.
で等式が成り立つと仮定すると
\begin{align} (x + y)^n &= (x + y)^{n-1} (x + y) \\ &= \left( \sum_{k=0}^{n-1} \binom{n-1}{k}_q x^{n-k - 1} y^k \right) (x + y) \\ &= \sum_{k=0}^{n-1} \binom{n-1}{k}_q x^{n-k - 1} y^k x+ \sum_{k=0}^{n-1} \binom{n-1}{k}_q x^{n-k - 1} y^{k+1} \\ &= \sum_{k=0}^n\binom{n-1}{k}_q q^k x^{n-k} y^k + \sum_{k=0}^n \binom{n-1}{k - 1}_q x^{n-k} y^k \\ &= \sum_{k=0}^n \left( \binom{n-1}{k}_q q^k + \binom{n-1}{k - 1}_q \right) x^{n-k} y^k. \end{align}
ここで命題3よりこれは
\begin{split} \sum_{k=0}^n \binom{n}{k}_q x^{n-k} y^k\end{split}
に等しいから での成立が示された.証明終
定理4で とすると二項定理に一致するので、定理4は二項定理のある種の非可換化だと思えます。
ツイートの等式の証明
上のツイートの等式の再掲:
定理5 \begin{split} \sum_{k=0}^n \binom{n}{k}_q \binom{m}{k}_q q^{k^2} = \binom{n+m}{n}_q. \end{split}
証明 の両辺の の係数を比較することで証明する.定理4より の の係数は である.一方 を展開して の項が現れるのは, の展開における の項と, の展開における の項の積をとったとき()に限られる.ここで , の展開における の係数は で, の展開における の係数は であり,また
\begin{align} (x^{m-k} y^k) (x^k y^{n-k}) &= x^{m-k} (y^k x) x^{k - 1} y^{n-k} \\ &= x^{m-k} (q^k x y^k) x^{k - 1} y^{n-k} \\ &= q^k x^{m-k+1} y^k x^{k - 1} y^{n-k} \\ &= q^k x^{m-k+1} (y^k x) x^{k - 2} y^{n-k} \\ &= q^k x^{m-k+1} (q^k x y^k) x^{k - 2} y^{n-k} \\ &= q^{2k} x^{m-k+2} y^k x^{k-2} y^{n-k} \\ &=\cdots \\ &= q^{k^2} x^m y^n \end{align}
が成り立つので, の展開における の係数は
\begin{split} \sum_{k=0}^n \binom{m}{k}_q \binom{n}{k}_q q^{k^2} \end{split}
と求めることができる.証明終