この前のブログに書いたやつが "zeta polynomial" だった件
以前の記事
で という組合せ量を定義しました。これは有限体 上の 次元ベクトル空間 における部分空間の列
\begin{split} 0 = V_0 \subset V_1 \subset \cdots \subset V_m = \mathbb{F}_q^n \end{split}
の個数に等しいものでした。
この記事を書いてからしばらくして、たまたま読んでいた文献 [1] に載っていた zeta polynomial というやつがこれの一般化になっていることに気づきました!!
が の多項式であることは、等式
\begin{split} Z_P(n) = \sum_{k=0}^d b_k \binom{n}{k} \end{split}
からわかります。ここで は の長さ の chain の個数で、 は の最大の chain の長さです。
として の部分空間のなす半順序集合をとり、 と対応させると、
\begin{split} [m]_q^{(n)} = Z_P(m-2) \end{split}
だったわけですね。
ちなみにこの zeta polynomial は、半順序集合の隣接代数(かなり雑に言えばグラフの隣接行列みたいなやつのなす代数)におけるゼータ関数というものと関係がありますが、Riemann ゼータ関数とかのゼータとは多分直接の関係はなさそうに思いました。
隣接代数のゼータ関数という名前の由来は、隣接代数のゼータ関数が隣接代数における Möbius 関数の逆元になっていることが、Riemann ゼータ関数の逆数は Möbius 関数の Dirichlet 級数であることに似ているのと大きく関係していそうに思います。
追記:隣接代数のゼータ関数の記事を書きました。
この中で zeta polynomial との関係についても解説しています。
参考文献
[1] Richard P. Stanley, Enumerative combinatorics, vol.1 (pdf)
[2] https://ncatlab.org/nlab/show/zeta+polynomial (2019年12月30日閲覧)
*1:[1] では における長さ の multichain の個数としている.この定義は [2] によった.
Hecke L 関数の岩澤-Tate 理論 (前編)
この記事はゼータ Advent Calendar 2019の4日目の記事です。
元々は一本の記事で書く予定でしたが、長くなりすぎてしまうため前編と後編に分けることにします。
この前編の記事では、岩澤-Tate 理論の解説の前提知識として、位相群上の調和解析の結果とアデール・イデールの定義と性質を準備します。
岩澤-Tate 理論のメインの解説は一週間後に後編の記事として投稿します。突然の予定変更で申し訳ありません。
はじめに
私 Oddie は学生時代に Weil の Basic Number Theory のゼミをやっていたのですが、当時は内容の表面的な理解がやっとだったので、いずれテキストをもう一度読み直したいとしばらく思ってました。
そんな中、2019年10月19日(土)・20日(日)の2日間にわたって開催された数学イベント「マスパーティ」
に参加した所、その企画の一つ「ロマンティック数学ナイトプライム@ゼータ」においてたまたま岩澤-Tate のお話が出てきて、とても面白く講演を聴かせていただきました。
その後自分も何かアウトプットをしてみたい気持ちが湧いてきて、上のテキストの復習を兼ねて、記事をゼータ Advent Calendar に投稿することに決めました。
タイトルの Hecke 関数とは Hecke 指標に付随する 関数のことです。 Hecke 指標は Dirichlet 指標の拡張であり、Hecke 関数は Dirichlet 関数の拡張になっています。また、代数体に対して定義される Dedekind ゼータ関数は自明な Hecke 指標に付随する 関数となっています。
このような広いクラスの関数である Hecke 関数(の完備化)をある種の位相群 (イデール) 上の積分で表し、位相群上の調和解析の手法を用いて関数等式や解析接続などの性質を導くのが岩澤-Tate 理論の骨子です。
位相群上の調和解析
ここでは Fourier 解析を一般の局所コンパクトアーベル群上で行うことを考えます。
を局所コンパクトアーベル群とします。 から への連続準同型を の指標 (character) と呼びます。
の指標のなす群 を指標群といいます。開コンパクト位相を入れることで は局所コンパクトアーベル群となります。
に対して、 を Pontryagin 双対性*1を考慮して とペアリングの形に書きます。
Fourier 反転公式
を の Haar 測度*2とし、 の Fourier 変換 (Fourier transform) を
\begin{split} \widehat f(\chi)=\int_G f(x)\overline{\langle x,\chi\rangle}dx \end{split}
で定義します。このとき です。
\begin{split} f(x) = \int_{\widehat G}\widehat f(\chi)\langle x,\chi\rangle d\chi \end{split}
この を の双対測度 (dual measure) という。
同型 が存在すると仮定し、この同型によって と を同一視することを考えます。このとき を適当な定数倍で置き換えると上の定理で とできます。この を自己双対測度 (self-dual measure) といいます。
例2 とします。 を指標 に写すことで同型 が得られます。この同型による同一視の下、Fourier 変換は
\begin{split} \widehat f(y) = \int_{\mathbb R}f(x)e^{-2\pi\sqrt{-1}xy} dx \end{split}
であり、 Lebesgue 測度 が自己双対測度です。定理1は通常の Fourier 反転公式になります。
Poisson 和公式
注意 このパートはまだ私が理解できていない所があるため、間違いを含んでいる可能性があります。
を の離散部分群で がコンパクトとなるものとします。
\begin{split} \Gamma^\perp = \{\chi\in\widehat G|\langle x,\chi\rangle=1,\ x\in\Gamma\} \end{split}
を の零化部分群 (annihilataor) といいます。
命題3 の Haar 測度 が存在して以下が成り立つ。 かつ級数 は に関して広義一様に絶対収束すると仮定する。このとき
\begin{split} \int_{G/\Gamma}\left(\sum_{y\in\Gamma}f(x+y)\right)d\dot x = \int_{G}f(x)dx \end{split}
このとき
\begin{split} \sum_{x\in\Gamma}f(x)=\sum_{\chi\in\Gamma^\perp}\widehat f(\chi) \end{split}
証明 ある によって と書けます*4。Fourier 反転公式より
となります。Poisson 和公式を と に用いて
\begin{split} \sum_{x\in\Gamma}f(x) = \sum_{\chi\in\Gamma^\perp}\widehat f(\chi) = c^{-1}\sum_{x\in\Gamma}f(x) \end{split}
を得るので です。証明終
例6 例2の状況を考えます。 とすると です。 を 上の急減少関数*5とすると定理4の条件を満たし、
\begin{split} \sum_{x\in\mathbb Z}f(x) = \sum_{x\in\mathbb Z}\widehat f(x) \end{split}
が成り立ちます。これは通常の Poisson 和公式です。
アデールとイデール
大域体
有理数体 の有限次代数拡大を代数体 (number field) といい、これは代数的整数論における基本的な研究対象です。この代数体と類似した性質を持つ体として有限体 上の1次元関数体、つまり有理関数体 の有限次拡大体、があります。
代数体は標数 で 上の1次元関数体は標数正であるなど、見かけはかなり異なっている二種類の体ですが、代数的整数論においてはほとんど同様な議論ができる場合が多いです。
そこで、これらの体を総称して大域体 (global field) と呼びます。
局所体
離散的でない局所コンパクト位相体を局所体 (local field) といいます。局所体は位相体としての同型を除いて次のいずれかになります:
1と2の局所体を非アルキメデス的 (non-archimedian)、3と4の局所体をアルキメデス的 (archimedian) といいます。
大域体の素点
大域体 に適当な距離 (絶対値) を入れて完備化し、位相的に扱いやすくすることを考えます。
- (i)
- (ii)
- (iii)
大域体 に対して の非自明な絶対値の同値類を の素点 (place) といいます。
を の素点とするとき、 の代表元 に関する の完備化を で表します ( のとり方によらない) 。このとき は局所体となることが知られています。
がアルキメデス的のとき をアルキメデス的 (または無限素点)、そうでないとき非アルキメデス的 (または有限素点) といい、それぞれ 、 で表します。
の全ての無限素点の集合を と書くことにします。 は常に有限集合で、 が標数正のときは空集合になります。
の加法群としての Haar 測度 をとると、 の絶対値 が
\begin{split} d_v(xy)=|x|_vdv(y) \end{split}
で定まります。 のとき (通常の絶対値) 、 のとき (通常の絶対値の二乗) となります。
が有限素点のとき は定義7の条件(iii)より強い条件
\begin{split}|x+y|\leq\max(|x|,|y|) \end{split}
を満たします。
以下しばらくの間 を有限素点とします。
\begin{split} \mathcal O_v = \{x\in K_v||x|_v\leq1\} \end{split}
とおくとこれは のコンパクトな部分環で、
\begin{split} \{x\in K_v||x|_v\lt1\} \end{split}
アデール
大域体の全ての完備化の情報を集めてできたものがアデールです。しかし、単に全ての素点での完備化の直積 を考えると、これは局所コンパクトになりません。
は の部分環で、その位相は以下のように定義されます (相対位相とは異なります) :
を を含む の素点の有限集合として
\begin{split} \prod_{v\in S} U_v \times \prod_{v\notin S} \mathcal O_v \end{split}
という形の集合を考えます。ここで は における の任意の開近傍です。この形の集合を の基本近傍系として、加法群 に位相群の構造を与えることができます。この位相で は局所コンパクト位相環になります。
は有限個の素点 を除いて を満たすという事実から対角準同型
\begin{split} K\ni x\mapsto(x,x,\cdots)\in\mathbb A_K \end{split}
が定まり、これによって とみなします。このとき次が成り立ちます。
イデール
\begin{split} I_K = \prod_v' K_v^*\end{split}
ここで右辺は の元 で、有限個の素点 を除いて を満たすものの集合を表す。
は の単元群 に一致します。
に からの相対位相を入れたものは位相群でない (逆元を取る演算 が連続でない) ため、以下のように位相を定めます:
を を含む の素点の有限集合として
\begin{split} \prod_{v\in S} V_v \times \prod_{v\notin S} \mathcal O_v^*\end{split}
という形の集合を考えます。ここで は における の任意の開近傍です。この形の集合を の基本近傍系として に位相群の構造を与えます。この位相で は局所コンパクト位相群になります。
は有限個の素点 を除いて を満たすという事実から対角準同型
\begin{split} K^*\ni x\mapsto(x,x,\cdots)\in I_K \end{split}
が定まり、これによって とみなします。 商 を のイデール類群といいます。
\begin{split} |x|_{\mathbb A} = \prod_v |x_v|_v \end{split}
で定義する。また の部分群 を次で定める:\begin{split} \mathbb A_K^1 = \{x\in I_K||x|_{\mathbb A} = 1\} \end{split}
このとき以下が成り立ちます。
参考文献
本稿は主にこのテキストの第IV章を参考に書きました。この章は次のテキストの Chapter VIIの内容を基に書かれています。
A Course in Abstract Harmonic Analysis - CRC Press Book
ここまで読んでくださりありがとうございました。
誤植や間違いなどありましたら、ご連絡いただけると助かります。
次回後編の投稿は、一週間後の12/11(水)を予定しています。
明日のゼータ Advent Calendar は tsujimotter さんの記事です。お楽しみに!
q-combinatorics と有限体
ブログはかなり久しぶりの更新になります。
ツイッターで写像 相の -類似やその幾何的実現という魅力的なワードを見かけたので、そのうちの つについて -類似と有限体を用いた実現を与えました。多項定理の -類似についても書きました。
§3で と という組合せ量を独自に導入しました。文献を調査した所、スターリング数や分割数の -類似もあることがわかったので、それらと の関係がわかったら面白いと思います。
誤植や間違い等ございましたら、ご指摘くださると助かります。
2019/12/30追記:pdfにいくつかの変更を加えました。
2020/01/07追記:定理 1.1 と 定理 2.2 の証明の記述に変更を加えました。
ディガンマ関数
ディガンマ関数と自然数の累乗の逆数和との関係についてのメモ。
ディガンマ関数
ディガンマ関数とは、ガンマ関数 の対数微分
で定義される関数です。
ガンマ関数の無限乗積表示
ガンマ関数の無限乗積表示について復習します。
この命題の証明は
にあります。
ディガンマ関数の性質1
命題1の両辺の対数微分をとると次が分かります:
さらに、定理1の等式の両辺を繰り返し微分すると次も分かります:
このようにディガンマ関数の導関数の での値はゼータ値と関係しています。
次に での値を見ていきます。
ディガンマ関数の性質2
証明.ガンマ関数の関数等式 の両辺の対数微分をとると
が分かり, について辺々加えると第一の等式を得る.この等式において とおけば第二の等式を得る.証明終
また定理3の両辺を繰り返し微分することにより次も分かります:
ニムゲームと排他的論理和
ニムと呼ばれる二人で行うゲームの必勝法と、それにまつわる演算を紹介します。
ニム
ニムは二人のプレイヤーがいくつかの石の山から石を交互に取り合うゲームです。ニムのルールはいろいろバリエーションがありますが、次のルールを考えます。
ニムのルール
- 石の山をいくつか用意する。
- 二人のプレーヤーは交互に 個以上石を取る。このとき、複数の山にまたがっては取れないが、一つの山からは何個でも取れる。
- 取れる石が無くなったら負け。
後でルール2を変えたゲームも考えます。
以下では、ニムの局面を非負整数の順序対で表します。
例: は、 番目の山に 個、 番目の山に 個、 番目の山に 個石がある局面。
Grundy値
ニムの局面には、Grundy値という非負整数値が定まります。
Grundy値の定義と性質については
fibonacci-freak.hatenablog.com
にあります。そこに書かれているように、Grundy値が の局面は後手必勝、nonzeroの局面は先手必勝です。
ニムの局面 のGrundy値を と表すことにすると、局面 は局面 の直和*1だから、上の記事の第一定理より、
ここで は二進記数法の各桁ごとの排他的論理和です。この「二進記数法の各桁ごとの排他的論理和」のことも単に排他的論理和と呼びます。
例:
よって次の結果を得ます:
これをもとにしたニムの必勝法の手順は
ニム(複数山の石取りゲーム)の必勝法 | 高校数学の美しい物語
の「ニムの必勝法の概略」にあります。その記事では「後手必勝」のことを単に「必勝形」と呼んでいます。
-ニム
を自然数とします。上のニムのルールにおいて、一つの山から取れる石の個数を 以上 以下に変更したゲームを考えます。区別のため、このゲームを -ニムと呼ぶことにします*2。
-ニムの局面も同じく順序対で表し、-ニムの局面 のGrundy値を と表すことにすると、
ここで自然数 に対して は、整数 を で割った余り( 以上 以下)を返す関数です。
まとめると次の結果となります:
-ニムの必勝法
の場合について必勝法を考えます。
証明.定理2から明らか。証明終わり
この系をもとに具体的な必勝法の手順を考えます。 を-ニムの先手必勝の局面とします。 のうち、 で割って 余るものの個数を とおいて、 の偶奇で場合分けします。系により次の二つの場合に分かれます。
1: のうち、偶数が 個、奇数が 個のとき
奇数であるものを とすると、 かつ となる手が存在する。
例えば が奇数だとすると、石の個数が で割って 余る山を一つ選んで、 個石を取る。
2: のうち、偶数が 個、奇数が 個のとき
奇数であるものを とすると、 かつ となる手が存在する。
例えば が奇数だとすると、石の個数が で割って 余る山を一つ選んで、 個石を取る。
この手順を繰り返せば自分の番が終わった後の局面は常に後手必勝となっているので、最終的には石が全く無い状態(=勝ち)に到達できます。
の計算
最後に、 の値の計算結果を示します。値が同じ所は同じ色で塗っています。
この表を眺めると、いろんな対称性に気がつくと思います。例えばこの図を 倍に拡大したときの相似性が見て取れます。